「障害」と「障がい」どちらが正しい? 2つの表記の考え方と当事務所の理念
近年では「障害」の「害」の字をひらがなとした「障がい」という表記を見かけます。この表記を採用している地方自治体もありますが、同一自治体の中でも「障害」と「障がい」という表記が混在していることはよくあります。本記事では、この2つの表記について次の3点から解説していきます。
- 「障がい」という表記が使用されるようになったのはなぜか。
- 同一自治体内で2つの表記が混在しているのはなぜか。
- 障害福祉業界に所属する当事務所の理念と考え方について。
「障がい」という表記
「障がい」という表記がされるようになったのは、「害」という漢字に負の印象があり、人に対して使用することは不適切であるとの見解に基づきます。「障害者」は社会にとって害である存在というイメージの改善を図るということです。「医学モデル」といわれる考え方に親和的です。
一方、漢字で「障害」と表記すべきという意見もあります。理由はさまざまですが、思想的にはいわゆる「社会モデル」の考え方に基づきます。障害というバリアを作り出しているのは社会であり、改善すべきは社会側にある。障害は当事者の問題ではないという見解です。
以上は、国の障がい者制度改革推進会議1における「「障害」の表記に関する検討結果について」の報告を基にまとめたものです。各表記に関する見解を詳しく知りたい方はリンク先の資料をご参照ください。
少し話題から外れますが、障害者権利条約において障害者が”Persons with Disabilities”と定義されていることを踏まえ、「障害者」を「障害のある人」とすべきという意見もあります。詳しくは、障がい者制度改革推進会議2の「障害の表記に関する意見一覧」をご参照ください。この意見は国の障害者差別解消法では採用されませんでしたが、自治体の差別解消条例においては比較的普及しています3。
ちなみに、国の障害者差別解消法に先立って全国で最初に条例を制定したのが、当事務所が所在する千葉県です4。
2つの表記の混在
「障がい」表記を採用している自治体でも、ときに「障害」と表記されることは普通です。これは、国が「障害」表記を採用しているためです。
国が定める各種法律の表記はすべて「障害」です。そのため、一般名詞としての「障がい」ではなく、法律に定められた固有名詞として使用する際は、漢字表記になります。具体的には次のような名詞です。
たとえば、「障がい者手帳は身体障害者手帳5、療育手帳9、精神障害者保健福祉手帳10の3種類あります」という書き方は間違っていません。一般名詞としての「障がい者手帳11」と法律に定められた「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」を区別しているからです。
当事務所の理念と考え方
さて、さまざまな見解を踏まえまして、当事務所では次の考え方から「障害」表記を採用しております。
- 社会モデルに基づき、障害は社会側の問題であると考えていること。
- 「障害」という名称自体を変更(精神分裂病→統合失調症などと同様)するのであればまた別として、単純に漢字をひらがなに置き換えても本質は変わらないと考えていること。
- 当事務所が所在する千葉県と柏市が「障害」表記を採用していること。
- 一般名詞としての「障がい」と固有名詞としての「障害」の区別の判断に悩むことが多々ある12こと。
- 結局、固有名詞としての「障害」表記も使わざるを得ず、表記が混在すると逆に一般の方の混乱を招く可能性があること。
- 「障がい」表記は読み上げソフトが正常に動作しない場合がある13と認識していること。
当事務所では障害に関するあらゆる課題について表面上の理解に留まることなく、障害者差別解消法の理念とともに、すべての人が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け努力してまいります。
補足:各都道府県および政令市の「障がい」表記率(地域別)
本記事を作成するに当たり、各都道府県および政令市の「障害」「障がい」表記状況を参考までに調査したところ、「障がい」を採用している地域に偏りがあることが判明しました。当該データは公益のため公開すべきものと判断し、ここに掲載いたします。元データ(Excel)は次のリンクからダウンロードできます。:@Dropbox
- 第26回、平成22年11月22日[↩]
- 第5回、平成22年3月19日[↩]
- 令和5年11月6日時点で障害者差別解消に特化した条例を制定している都道府県39団体のうち、25団体が「障害のある人」表記を採用。(地方自治研究機構「障害者差別解消に関する条例」のデータに基づく)[↩]
- 公布日は国が平成25年6月26日、千葉県が平成18年10月20日[↩]
- 身体障害者福祉法第15条[↩][↩]
- 障害者総合支援法第5条第1項[↩]
- ちなみに「障害福祉サービス」とはいわゆる成人向け(例外あり)のサービスのみを指します。障害福祉サービス・障害児通所支援・各種相談支援をまとめた用語が法律上存在しないため、当事務所では独自に「障害福祉事業」と表記しています。[↩]
- いわゆる入所施設のみを指します。障害者総合支援法第5条第11項[↩]
- 「療育手帳」という名称でない自治体もあります。知的障害を対象とする手帳については法的根拠がなく各自治体の定めにより発行していることが理由です。なお、ベースは昭和48年9月27日厚生省発児第156号厚生事務次官通知「療育手帳制度について」[↩]
- 精神保健福祉法第45条[↩]
- まとめて3手帳を示す用語が法律上存在しない。[↩]
- たとえば、障害福祉サービスのご利用者様を「障害者」(障害者総合支援法第4条で定義されている)と表記すべきかなど。[↩]
- 大阪府:福祉のてびき(音声読み上げ用)本編「大阪府では、「障害」の「害」の漢字をできるだけ用いないでひらがな表記としていますが、お使いの音声読み上げソフトによっては「さわりがい」と読む場合がありますので、本ページでは音声読み上げソフトで正しく読み上げることができるよう「障害」の「害」の字を漢字表記としております」[↩]